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花王が技術イノベーション発表会

花王は11月27日、東京・紀尾井町のホテルニューオータニで「今後の花王グループを支える技術イノベーション発表会」を開催した。同社は、昨今の社会課題に対応するために、創業以来培ってきた清潔・美・健康、さらには環境分野の研究資産を結集し、技術イノベーションで社会に貢献する取り組みを強化しており、その方向性と具体的な5つの技術イノベーションを発表した。
 新製品の発売前に技術イノベーションをまとめて発表することは同社でも初の試み。発表会の冒頭に澤田道隆社長はその目的について「花王グループはマーケティングの会社であるとともに、イノベーションカンパニーでもある。自分たちの技術を多く見せて、共有化した方が良いと考えた。昨今のニーズの多様化、エシカル志向、団体で動かず個性を大切にするといった動きから見ると、技術の出口はどんどん広がっていく。これまでは技術を作り、それを元に価値ある製品を作ってきたが、自前で自分たちの考えている方向だけにその技術を使っている。マスの世界はそれで成り立っていたが、スモールマス、パーソナライズ、One to Oneという方向の提案が必要になっている昨今においては、技術をもっと色々な多様な形で一緒に考えることも重要で、この発表会は我々の技術のアピールの場でもあるが、花王グループらしいオープンイノベーションの場でもある」と強調した。
 同社は、研究費の約半分を基礎研究に投じているが、それも社会的価値を革新するような技術イノベーションの創造に繋げる狙いがあるからだ。同社グループの未来の可能性を共有化し、花王らしいオープンイノベーションを交えながら、最終的には社会変化に対応する製品を生み出して、それがESG活動に繋がり、花王グループの存在感を醸成することにもなる。
 その花王の強さの源泉のひとつが基礎研究、すなわちヒトや物質の本質研究の深化・融合によるイノベーションにある。同社は、研究費の約半分を基礎研究に投じている。2017~18年の技術イノベーションとしては、UV防御剤内包カプセルを配合し、均一塗布性を大幅に向上することにより格段に効果が高い日焼け止め技術(来春からのサンケア商品に活用)や、環境にやさしい水性インクジェットインク「LUNA JET」、動きによって変化するレインボーカラー「@Pure Pigments」、染料を用いないナチュラルベースの黒髪戻し「Rerise」のように、光・色や界面の本質研究を生かした技術から商品が生まれてきている。
 今回の発表会では、50以上の基礎研究テーマに取り組む中、「選りすぐった5つ」と澤田社長が表現した皮膚・繊維の本質「Fine Fiber」、健康・皮膚の本質(解析)「RNA Monitoring」、毛髪・皮膚の本質「Created Color」、界面・環境の本質「Bio IOS」、環境・容器の本質「Package RecyCreation」を紹介した。いずれも「来年(2019年)中に、まずは自分たちのイメージしている中での応用に展開していく。これによって、中期経営計画K20の達成を目指しているし、それ以降、2025年、2030年を支える大きな柱として、この5つ、または周辺の50の基礎研究をこれからも高めていきたい。清潔・美・健康を突き詰めるだけでなく、その境界領域のビジネスをしていきたい。この境界領域の新事業にまつわる技術を別途準備しているので、近々それが実現できるのではないか」との見通しも明らかにした。

 同社の研究部門を統括する長谷部佳宏専務が説明したその5つの新たな技術イノベーションについては本誌2019年12月号で詳細を紹介しているが、ここでは「Bio IOS」について紹介したい。
 長谷部専務は「Bio IOS」について、“洗う”とは、モノと人を再生するサステナブルな行為だが、すべての洗う常識(性能)を飛躍的に超える界面活性剤を誕生させる、と表現した。「Bio IOSの技術開発には、長年多くの研究員が夢に向けて、この完成に費やしてきた。今、最終段階で、これを生産段階に乗せ、多くの製品に使っていきたい。食と競合せず、未来のバイオマスで最も生産性の高い原料から新洗浄料を生み出すという夢を実現するとともに、洗うと同時に汚れ・菌が増えない表面を作る、洗うほど洗浄性が高まる新しい技術である」という。
 今後、世界の人口増と同時に都市化が進み、生活水準の増加が洗うことを要求し、世界の洗浄剤の需要が2050年には現在の3倍になると同社はみている。一方で、界面活性剤の原料である植物油脂の中でもラウリン系油脂の増産は需要に対して十分に増えていかないことを懸念している。「我々が持っている原料では、洗うことが供給できなくなるという危機がまさに迫っている」というまで花王が意識している問題だ。
 世界の植物油生産量に占める割合が低いパーム核油やヤシ油といったラウリン系油脂(C12、14)ではなく、普通の温度では固まりやすく洗浄剤に使うのが難しいとされてきたオレイン・ステアリン系の油脂(C16、18)、つまり活性剤としては未活用のバイオマスを使いこなす新しい技術を花王は開発した。「一般的に使われるAES(アルキルエーテルサルフェート:末端親水基型)に対して、Bio IOSは新しい構造(内部親水基型)でそれを成し遂げることができた。固まってしまう油を固まらない性質にする。しかも、界面活性剤にするという技術ができた。これは将来、藻類由来のようなオレイン・ステアリン系の使いにくいがサステナブルな油さえも原料として使うことが可能になる。この活性剤は、今までの活性剤の代替品ではない。長年培ってきた界面科学を打ち破るような新しい性質を実現した」と高らかに宣言した。
 機械力(揉む、擦る)と界面力(分解、分散)、改質力(表面、内部)の3つの要素が洗浄力と大きく関わる。これらを高める上で、界面活性剤の組み合わせはこれまでも活用されてきたが、「Bio IOS」はそれをすべてひとりで成し遂げてしまう。「これは革新的な洗浄技術。端的に言うと、他の基剤には行かないのだが、汚れだけ狙い撃ちで行く、いわゆる選択的に行くという常識を変えるターゲッティング洗浄技術がこの中にある。もうひとつは、洗いながら同時に、革新的に表面を親水化する。たったひとつの界面活性剤でこれができるというのは、今まで世の中になかった」という。
 この界面科学を突き詰めて生まれた洗浄の革新がもたらすものは何なのか、その一例を挙げると「例えば、凄く弱い機械力、なでるような機械力でありながら、汚れがどんどん取れていく。汚れが取れる水や、浸けるだけで一瞬にして油(汚れ)が水に逃げたくなる技術。もうひとつは、一旦汚れた水に浸けても二度とその対象になるものが汚れないという技術になる」としている。
 様々な界面に対して万能に親水化を図れる界面活性剤はこれまで不可能と思われてきたが、「Bio IOS」は、木綿、ナイロン、毛髪、ステンレス、肌、ゴム、ポリエステル、ガラス、アルミ、ポリプロピレン、アクリル、ポリエチレンなどあらゆる表面を親水化して、汚れの付きにくい性質にすることができる。そのため「洗えば洗うほど洗浄力が高まる。しかも、洗うことによって、その上に何も残さないという性質が出てくる。洗う対象面には色々なものがあるが、すべての表面を無に変えていくと、生活がどんどん変わる。顔を洗う、身体を洗う、髪を洗う、色々なところが変わっていくと思う。この技術を色々な可能の商品に載せて展開していきたい」と意気込みを語った。