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花王が新たな蚊忌避技術を開発

 花王は12月10日、蚊の忌避技術に関する研究成果のオンライン説明会を実施した。
 新開発した蚊の忌避技術は、従来の虫よけ剤とは異なり、蚊の脚が持つ繊細な構造に着目し、肌表面を蚊の嫌う物性に変化させることによって、肌に蚊をとまらせず、蚊に刺されないようにするという独創的なアプローチだ。同社のパーソナルヘルスケア研究所・マテリアルサイエンス研究所が、低粘度のシリコーンオイルの塗布により、蚊の吸血を阻害できることを明らかにした。
 説明会ではまず、今回の技術開発のリーダーを務めるパーソナルヘルスケア研究所の仲川喬雄氏が、開発の背景を述べた。
 蚊は、地球上で最も人類を殺している生き物だ。マラリアやデング熱といった感染症を人から人へ伝播させ、蚊によって死亡する人は年間70万人以上といわれている。現在でも、安全で有効なワクチンや治療法は確立しておらず、感染を防ぐには蚊に刺されないことが重要だが、蚊の被害が多い東南アジアなどでは、多くの人が毎日蚊に刺されているのが実態だ。仲川氏は昆虫の感覚受容の研究を専門としており、花王研究員として、こうした蚊から身を守る技術を開発したいという思いのもと、研究をスタートした。
 今回の技術は、化粧品の開発から着想を得たものだという。日焼け止めの機能として紫外線を防ぐだけでなく、肌にほこりやPM2.5などもつきにくいものが作れないか、との考えから、肌表面に微細な凹凸を形成する方法を考案したことがきっかけとなった。この技術に仲川氏が興味を抱き、蚊の忌避技術に応用できないかと考えた。
続いて登壇したメイクアップ研究所の飯倉寛晃氏は、高分子の界面化学を専門としており、その専門性を活かしてチームを基礎技術の完成まで導いた。
通常、蚊は肌に降り立つと、まず脚先を使って体勢を安定化させ、その後、吸血活動を始める。そのため、蚊が肌にとまっても、すぐに離脱させれば吸血されることはない。そこで、さまざまな表面に対して、蚊が降り立つ挙動をハイスピードカメラにて観察した結果、蚊は、水との親和性が低い特定のオイルを塗布した表面からは即座に飛び去り、さらにその後、脚をすり合わせるようにして付着したオイルを拭う動作をしていたことが判明した。表面に微細な凹凸がある蚊の脚は、油に触れるとその凹凸に吸い上げられるようにして油が瞬く間に脚の表面に広がり、蚊の側からすると、脚が油に引き込まれるような感覚となる。そのため、危機を感じて慌てて飛び去ろうとすることに気付いだのだ。
 こうした発見をもとに、肌を蚊が嫌う状態に変化させる低粘度のシリコーンオイルを開発。この油は化粧品にもよく用いられるもので、使用制限があるような扱いが難しい薬品とは異なり、スキンケアをする感覚で蚊をよけられる可能性が出てきたといえる。