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既存事業の海外展開を加速するADEKA  
将来を担う新規事業育成も

 ADEKAは11月20日、同本社で2012年度上期決算説明会を開催した。
 説明会の冒頭、櫻井邦彦会長は「当社は5年後の2016年度に100周年を迎える。その時に3,000億円のグッドカンパニーにしようというのが大目標であり、それに向けて今年から始まった中期経営計画を進めている。現在、海外12カ国22社へと間口が広がっており、会長・社長制でしっかりと成長戦略に乗せていきたい」と挨拶した。

 続いて郡昭夫社長が上期の業績や中期経営計画の進捗状況、2012年度の業績予想や事業施策などについて説明した。上期の連結業績は、売上高884億6,100万円(前期比3.5%増)、営業利益47億1,400万円(同8.7%増)、経常利益44億7,800万円(同11.4%増)、四半期純利益24億600万円(同22.0%増)の増収増益となった。郡社長は上期の概況について「自動車やIT・デジタル家電向けに対しては高機能製品が伸長した。震災で失った食品のシェアは回復することができた。しかし、期の終盤には欧州債務問題や中国ほかの成長鈍化などの影響を強く受け、さらに投資有価証券の評価損などの特別損失の計上もあって、期初の業績予想には達しなかった」と総括した。
 セグメント別では、情報・電子が増収減益、機能化学品も増収減益、基礎化学品は減収減益となった。機能化学品のうち界面活性剤については静菌剤など化粧品材料は伸長した。一方、食品事業については、震災の影響を大きく受けた昨年から今上期は回復し、売上高257億円(前期比29億円増)、営業利益5億円(同10億円増)の増収増益となった。「業務用マーガリンなど加工油脂やホイップクリームなどの加工食品は、バター風味豊かなマーガリンや新製品のホイップクリームなど特徴ある製品を中心に伸長し、震災により失ったシェアを回復できた」としている。

 今年度よりスタートした中期経営計画「STEP3000」では、基本方針としてまず「海外展開の加速」を挙げている。郡社長は「6月に米国でHammond社より塩化ビニル用安定剤事業を米国にある連結子会社AMFINE CHEMICALを通じて買収し、AM STABILIZERS CORPORATIONを設立した。両社のビジネスあるいは製品力を融合して、米国のみならず、世界の新たな市場に参入していく。また、ブラジル現地法人としてADEKA BRASIL LTDA(仮称)を設立し、2013年5月をめどに営業開始する。ブラジルを中心に、南米地域の自動車やエレクトロニクス産業をターゲットにして樹脂添加剤を主として製品の販売拡大を図っていく」という。特に、ブラジルではサッカーW杯や次期オリンピックの開催を控え、スタジアム整備が活発化している。スタジアムのチェア向けに「高機能の難燃剤の新製品の導入を開始しており、販売シェア、市場開拓を進めていく」考えだ。
 食品事業の海外展開では、マレーシア最大手のパーム農園で油脂事業をグローバル展開するIOIグループとの合弁で、マーガリンやショートニングなどを製造・販売するADEKA FOODS(ASIA)SDN.BHDをマレーシアに今年11月に設立することを決めた。郡社長は「2014年7月の工場竣工を予定し、成長が見込まれる東南アジアでの事業拡大を積極的に図りたい」と語った。
 また、2つめの基本方針「技術力の強化」については、「世界的に展開している樹脂添加剤事業のグローバルテクニカルセンターとして浦和開発研究所に新研究棟を完成させ、新製品の開発を強力を進めていく」、3つめの「選択と集中」については「創業の事業ではあるが、競争力が低下した電解事業からの撤退を通して、経営資源を今後の成長分野に集中していく」と語った。
 2012年度通年の連結業績予想は、「日中韓の緊張、国内外の景気減速を受けて、主に化学品事業の需要が減退している。5月に発表した業績予想を10月に下方修正し、売上高は5月発表対比で700億円減の1,800億円、営業利益は20億円減の100億円を見込んでいる」と郡社長。

 将来を担う新規事業の育成にも取り組んでいる。その一例として郡社長は4例を紹介した。いずれもライフサイエンス分野の製品だ。
 ひとつは、大腸癌の早期発見用造影剤「ナノビーコン」だ。強い蛍光を発するナノビーコンが癌細胞と結合し、肉眼で見えにくい微細な状態での切除が可能となる、世界初の大腸内視鏡検査用造影剤の製品化を米国ヴァンダービルト大学などど共同研究して進めている。
 2つめは「メバロノラクトン」で、「化粧品原料として現在活用されているが、脱毛症の予防・改善などメディカル分野での展開を進めていきたい」という。
 3つめは、人体の血清中のリン脂質のひとつである「プラスマローゲン」で、その量と脳の老化には強い相関関係があることが明らかにされている。「認知症予防改善作用をもつ新たなリン脂質食材の開発」として国家プロジェクトで採用され、北海道大学原教授らとの共同研究が進められている。
 4つめは、ベータグルカン。「大麦由来と黒酵母由来の2種類を当社は持っている。そのうち、大麦由来は健康食品分野に、黒酵母由来は化粧品、ヘアケア、さらにメディカル分野への用途拡大を進めている。ベータグルカンは海外では機能表示が進んでおり、米国や欧州では、コレステロール低下による心臓疾患のリスク低減表示ができる。わが国でも消費者庁で『食品の機能評価事業』に採択されており、さらに認知度が高まっている」という。

 食品事業の海外事業で注目されるIOIとの合弁について、櫻井会長は「マーガリンでは国内でトップシェアを自認しており、昨年の震災の影響から現在は回復している。やはり世界展開を確立するためには、安定して競争力のある製品を作ることがキーワードである。マーガリンの場合、原料は今やパーム油に依存しており、当社はパーム農園を経営する体力はないので、生産地のマレーシアでジョイントベンチャーを組むことが一番と判断した。それにより、フレッシュな原料を使って、ADEKAの技術でマーガリンを作ることが最も競争力を高められる。そういう意味合いでIOIのトップと握手し、今日に至った。また、選挙のテーマにもなっているTPPも考えなければならない問題だと思っている。これから伸長していうインドネシアやマレーシア、タイといった東南アジアは中流階級が増えてくるとパン食が広がる。中国の拠点の次は、東南アジアで展開するということだ。ADEKA(SINGAPORE)は日本へ持ってくる製品がメインとなっており、現地で作ったものを販売するのは、このADEKA FOOD(ASIA)が担うことになる」との考えを示した。