ヤシ科の植物であるココヤシの核果から採油される油脂がヤシ油である。ヤシの胚乳を乾燥したものはコプラと呼ばれ、これを圧搾または圧抽することによりヤシ油が得られる。
ヤシ油の脂肪酸組成は、ラウリン酸が約50%と高く、ミリスチン酸やパルミチン酸のほかカプリル酸、カプリン酸を含めて飽和脂肪酸で90%程度が構成されている。常温では固体であり、パーム油やラードに比べて、可塑性範囲が非常に狭く、シャープな融解性を備えている。飽和脂肪酸が多いため、自動酸化に対する安定性も高い。なお、パーム核油もラウリン酸を主成分にし、ヤシ油と類似した特徴を持っており、ヤシ油・パーム核油をあわせてラウリン系油脂と呼ばれる。両者にはある程度の代替性があるが、他の油脂には替え難い特徴を備えており、エルニーニョ現象など天候要因により生産量が減少した年には価格が高騰しやすい傾向にある。
世界のコプラ収穫面積は約950万haとなっており、インドネシアが300万ha弱、フィリピンが200万ha余りで2大生産国。世界のコプラ生産量は年間500~600万トンの水準にあり、300万トン前後のヤシ油が生産されるが、コプラおよびヤシ油の生産量はインドネシアよりも単収の高いフィリピンの方が多い。また、世界のヤシ油貿易量は年間200万トン前後だが、輸出量の約80%をフィリピンとインドネシアで占めるように、輸出余力を持つ国は少ない。
ヤシ油は、食用からオレオケミカルをはじめとする工業用途に幅広く用いられる。パーム核油との代替性もある程度あるため、日本のヤシ油消費量は年によって異なるが、2009年、2010年には年間5万トン弱のヤシ油が輸入されている。食用では、マーガリンへの利用は多くないが、ショートニングや、乳脂肪代替としてホイップクリームやラクトアイスへの利用が多い。国内では2002年まで搾油が行われていたが、現在はヤシ油供給をすべて輸入に依存している。
また、工業用途における利用も多岐にわたっている。ヤシ油はC8~C16の幅広い脂肪酸組成を有しているが、特にC8~C14での利用度が高い油脂といえる。ヤシ油から製造される脂肪酸誘導体やエステル、アルコールは、洗剤、石けん、ヘアケアなどの原料として広く利用されている。
また、近年においては、再生可能原料の開発が活発になる中、ヤシ油を原料としたディーゼル燃料が最大生産国のフィリピンで利用されている。ヤシ油の需給バランスを変化させる要因のひとつとして注視していく必要がある。
欧州、米国といった先進国はもとより、東アジアをはじめとした新興国における洗剤需要、その原料となる脂肪酸、天然高級アルコール需要の増加が続いている。
日本のヤシ油輸入量 |
(単位:トン) |
2000 | 32,295(+生産量25,094) |
2001 | 30,575(+生産量21,150) |
2002 | 43,653(+生産量8,049) |
2003 | 57,328 |
2004 | 60,423 |
2005 | 64,375 |
2006 | 63,611 |
2007 | 60,887 |
2008 | 58,371 |
2009 | 47,424 |
2010 | 47,099 |
(資料:財務省「日本貿易統計」) |
世界のヤシ油需給 |
(単位:万トン) |
年度 | 生産量 | 輸入量 | 輸出量 | 工業需要 | 食品需要 | 期末在庫 |
2007/08 | 353 | 190 | 193 | 152 | 180 | 44 |
2008/09 | 353 | 165 | 148 | 159 | 176 | 75 |
2009/10 | 362 | 224 | 217 | 165 | 215 | 55 |
2010/11 | 368 | 200 | 189 | 173 | 210 | 47 |
(資料:米国農務省) |