魚油は、水産・畜産飼料に用いられる魚粉とともに併産され、他の油脂に比べてDHAやEPAなどn-3系の高度不飽和脂肪酸を多く含む油脂である。
世界の魚油生産量は年間約100万トン前後あるが、南米のペルーとチリの2国がそのうち4~5割、アイスランド・デンマーク・ノルウェーの北欧3国が2~3割を占めている。世界の漁獲量は2000年に1億トン近くあったが、水産資源の持続可能な利用が求められており、各国で漁獲規制を含めた資源管理策が敷かれている。
その一方で、世界的に魚食は拡大傾向にあり、近年における養殖産業の成長は著しい。水産養殖に利用される飼料は生魚や魚粉、魚油を原料にしており、供給量が増えない中で魚油や魚粉の価格は従前に比べて上昇している。
魚油消費量の多い国としては、サーモン養殖の盛んなノルウェー(年間20万トン前後)やチリ(2008年以降は養殖サケの伝染病問題や大地震により年間10万トン強)が代表的である。さらに近年、養殖産業の成長が著しい中国の消費量も増加しており、2005年には3万トン足らずだったものが、2010年には8万トンに達したと推定される。
日本は、古くは鯨油、1990年頃まではマイワシを中心に40万トン以上の魚油生産を誇ったが、マイワシの資源枯渇により2000年以降の魚油生産量は年間6~7万トンに激減し、供給の一部を輸入に依存する状況となっている。国内の魚油・魚粉生産は60~70工場で行われているが、約90万トンの原料処理量のうち、ラウンド処理(丸魚処理)は10万トンにも満たず、80万トン以上がいわゆる水産加工残滓に頼っている。その加工残滓の処理量も2005年に100万トンを下回り、漸減傾向にある。
2010年の国内魚油消費については、食用加工油脂向け8,000トン、飼料向け約5万トン、燃料向け約1万5,000トンと推定される。
硬化魚油は、結晶の安定性や口溶けの良さ、ショートニングにしてホイップすると高い比容積が得られるなどの物理特性を持ち、マーガリンやショートニングなど食用加工油脂原料に利用されてきた。しかし、近年の魚油価格の上昇や低トランス脂肪酸対応による硬化油離れなどを理由に加工油脂向け需要の減少が続いており、この分野における硬化魚油の使用実績は2000年の約6万トンから2010年には1万トンを割り込む水準まで減少している。供給力が安定したパーム油による機能代替も進んでいる。
また、EPAやDHAといったn-3系脂肪酸は必須脂肪酸であると同時に、冠状動脈疾患や心臓疾患に対する予防効果が期待され、健康食品やサプリメントにも利用されている。デンマークでは、各種魚種を1日30g(EPA、DHA換算で350mg)以上摂取することが推奨され、わが国でも、中性脂肪を低下させる作用のあるEPAやDHAを含み、中性脂肪が気になる人に適した特定保健用食品が販売されている。
日本の魚油生産量と輸入量 |
(単位:トン) |
年 | 魚油生産量 | 魚油輸入量 |
2000 | 69,956 | 49,808 |
2001 | 63,481 | 90,791 |
2002 | 62,766 | 58,556 |
2003 | 66,956 | 39,463 |
2004 | 68,210 | 39,493 |
2005 | 62,741 | 51,399 |
2006 | 69,107 | 38,611 |
2007 | 60,082 | 29,711 |
2008 | 62,681 | 37,643 |
2009 | 64,622 | 32,864 |
2010 | 60,486 | 21,292 |
(資料:(社)日本フィッシュ・ミール協会、財務省「日本貿易統計」) |