こめ油
posted on : 2011.08.29
コメ油は、コメの精米時に併産される米糠を原料に搾油した油で、わが国での歴史は江戸時代に遡る。元禄の頃に桑名で初めて搾油が行われ、素麺の伸ばし油として利用されたという。その後、油分が少なく圧搾法では効率が悪いこともあり、広く普及することはなかった。
産業として米糠搾油が行われるようになったのは、昭和8年からである。鐘淵紡績㈱が、米国からの輸入に頼っていた繊維油剤の供給安定を図るために国産油脂の開発研究を行い、精米時の大量に発生する米糠に目を向け、研究を行い、大阪の加賀製油㈱に生産を委託した。加賀製油では、玉絞機で搾油し、精製は鐘淵紡績が行った。
コメ油は、食用油として優れた点を多く持つ一方で、安定した収益を上げることがなかなか難しいという宿命を持っている。原料米糠の油分は20%弱と、大豆とほぼ同程度で、他の油糧種子に比べて低くなっている。しかも油を絞った後の脱脂大豆が大豆ミールとして飼料のたん白源として重要な役割を果たしているのに比べて、脱脂糠はたん白としての評価は低く、フスマなどと同様に糟糠類として位置付けられている。価格も大豆ミールやナタネミールより安く売られており、米糠のオイルバリューは大豆よりはるかに高くなっている。
そして、原料米糠は酸化が早く、原料の在庫ができない。精米所で発生する糠を時間を置かずに集め、搾油しなければならない。収穫後24時間以内の搾油が求められるオリーブやパームの搾油と似ているが、原料発生場所が拡散しているため、薄く広く集荷しなければならず、しかも毎日の集荷が求められる。米の消費減に歯止めはかからず、米糠集荷も減り、また集荷効率が悪くなり、コストが嵩む。
そしてコメ油業界にとっての悩みの種は、米糠がさまざまな用途に使用され、米糠集荷のライバルが多いこと。その中にはエノキ茸のように、コメ油より高いコストで原料を仕入れても採算が取れる業界もある。最初から競争にならないので、コメ油業界はエノキのシーズンになる秋からは、米糠相場の高騰を防ぐため、エノキの主要生産地である長野県中野市農協に対して、自らが集めた米糠を中野農協にザラ場より安い価格で協力出荷をすることまで行ってきた。
米糠集荷量の確保、そして米糠価格の安定にコメ油業界は大きなエネルギーを割かざるを得なかったといえる。
一方で、コメ油は食用油として綿実油と並ぶ高い評価を受けてきた。マヨネーズの原料油脂として綿実油の代わりに使われたり、その風味と酸価安定性は植物油脂の中でも上位に位置付けられてきた。
昭和30年代には家庭用でも人気を博し、全国に広がりつつあったスーパーマーケットの店頭に幅広く置かれるようになっていった。しかし、好事魔多しといわれるように、コメ油が急速に発展しつつあった時に、カネミ油症事件が起きた。コメ油の製造工程で熱媒体として使用していたPCBが混入し、それを精製して販売したカネミ倉庫の食用油を食べた人が発症した。コメ油そのものとは全く関係のない、どんな食品にも起き得る製造上の事故だったが、コメ油が風評被害で、瞬く間に全国の販売店の店頭から姿を消した。その後遺症は重く、長い間コメ油は家庭用の販売で苦戦を強いられることになった。
そして新たな用途開発が進められ、マヨネーズや油漬け缶詰など、コメ油の風味と安定性を生かしたさまざまな用途に向けての販売が活発化した。
そんな中、湖池屋がポテトチップスの揚げ油としてコメ油を採用したことは、業界を苦境から救った。一方で、風味が良く、熱安定性に高いコメ油は、沢山食べても胸焼けを起こすことがなく、ポテトチップスの普及に大きな役割を果たした。
コメ油は唯一といって良い国産の植物油である。プレミアム油として、大豆油や菜種油よりも高い価格で取り引きされているように品質への信頼は高い。供給も3万トン前後の原油輸入(国内で精製)に道筋が着いたことで、安定することになった。折しも、世界の油脂相場は高い水準で推移することが予想されており、国内原料を中心にするコメ油は、中・長期的に見て、その競争力は年々高くなることが予想され、将来への期待は高い。
コメ油生産量と輸入量
(単位:トン)
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米糠処理量 コメ油生産量 コメ油輸入量
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2000 339,253 65,352 10,116
2001 325,599 63,196 10,114
2002 305,263 59,340 13,972
2003 304,342 59,219 18,866
2004 295,314 57,135 27,239
2005 308,635 60,258 31,791
2006 323,638 63,378 24,521
2007 317,072 62,517 28,473
2008 335,917 65,665 303846
2009 311,681 61,602 24,058
2010 309,325 60,960 27,923
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(資料:「油糧生産実績」、「日本貿易統計」)